カムイ・カイコウ(5)
それから30分くらい待っただろうか。ずっと停車中なのに列車酔い? というところで窓の外を見るとホームに人がいた。男性で僕より少し年上に見える。妙な親しみを感じて思わず手を振ってしまった。
彼は一瞬きょとんとした顔つきになったが、車内にやってきた。
「久しぶり…… かな?」
「そんな気がします」
手を振ってしまった以上そう答えるしかない。
「旅行でここに来たの?」
「いや、札幌で用事があるのですが乗る列車を間違えたかもしれません」
「札幌か。どこから来たの?」
「旭川です」
「そうか。旭川から札幌まで今時こんなSLには乗らないだろうし、観光用の列車に迷い込んだのかもな」
やはりそうか。これは僕が生まれる前の時代にたくさん走っていたらしいSL列車なのか。SLのスーパーカムイなんて見たことも聞いたこともないし、乗る列車を間違えているということはいえそうだ。
「ところで、さっきホームにいましたが、近くの店か観光スポットにでも行っていたのでしょうか?」
「いや、俺も札幌に行こうとしていたら道を間違えたかもしれない」
「道? ということは車で移動していたのですか?」
「ええ、高速道路で行こうとしていたんだけど、どこかでよく分からない山道に入っちゃったっぽい」
「それでここに辿り着いたと」
「今どこにいるのか知りたくて建物とか探していたんだけど、この駅以外何もなさそうで、駅名だけでも分かればと思い立ち寄ってみた」
「駅名は?」
「分からない。駅舎にもホームにも書いてなかった」
彼も札幌に行こうとして道に迷ったのか。
「車は近くの駐車場にでも止まっているのでしょうか?」
「近くに止めているよ」
「もしよければ札幌まで乗せていただけますか? 道を調べるなどお手伝いもしますので」
道に迷っているドライバーにヒッチハイクの話を持ちかけるのは厚かましいが、目的地が同じ札幌だし、いつどこに行くのかも分からないこの列車に乗っているよりはマシだと思った。
「いいけど、いつ着くか分からないよ」
「それは大丈夫です。お願いします」
2人で列車から降りて駅の外に出る。少し斜面を登ると道路があり、路肩に1台の車が止まっている。これが彼の車らしい。助手席に乗り込む。
車はすぐに動き出した。積雪があるのでスピードはあまり出さないようだ。僕は車外の様子を見て、彼が貸してくれた道路地図と照らし合わせる。こんなことをしても今度は全然酔わなかった。