しがさかのブログ

関越・羽越ウォーク(神奈川県〜秋田県)の記録など

カムイ・カイコウ(六)

駅で会った青年と一緒に車に戻り、運転を再開した。相変わらず積雪のある下り勾配なので慎重に運転する。

 

3分くらい走ったとき、彼が口を開いた。

「申し訳ないですが、さっきの駅で忘れ物をしたっぽいです」

「そうか。じゃあ戻ろうか」

「すみません」

車をUターンさせて駅に戻る。今度は上り勾配なので少しアクセルを踏み込む。

「どこらへんだっけ?」

「まだ先のような気がします」

緩い右カーブを抜けて少し走ると、彼がまた口を開いた。

「ここらへんだと思います」

車を路肩に止め、車外に出た。心配なので俺も彼と一緒に駅に戻った。

 

彼が客車に忘れ物を取りに行っている間、俺は駅舎で待つことにした。駅舎の出入口にあるベンチに腰掛ける。西洋風の木造駅舎にSL列車。色々と写真を撮るのも悪くないと思ったが、彼が戻ってくるのが遅いのでそっちを先に確認しよう。

 

彼が乗っていた客車に入ったとき、俺は異変に気づいた。彼が床でうずくまっている。具合が悪いのだろうか。咄嗟の判断で彼を客車から降ろす。再び客車に入り、彼の忘れ物と思われる物を回収する。ここにいてはいけない、駅舎の中にでも連れていって様子を見よう。

 

彼を駅舎の中で横たえた後、俺は念のために携帯電話を開いて通話ができるかどうか確認した。圏外なので、次に駅に備え付けの電話を探す。これも無さそうなので諦めて彼の横に戻る。体調は少しずつ戻っているように見えるが、車までの移動は厳しそうだ。

 

外に電話を探しに行った時点で列車がいなくなっていたので、辺りはかなり静かだ。これまでのことを思い出す。高速道路を走っていたら変な道に入ってしまい、止むを得ず停車したらこの駅があった。人気のない駅だが、客車の中を見ると彼がいて……

 

ここでハッとした。彼が手を振ったシーンが大昔の駅での見送りのシーンと重なった。見送った相手は今日みたいに観光地で会った若者。2人で何か話をした後、帰りの列車が別々なので俺がその子を見送った。その後その子のことがかなり心配になったが、なぜだろう?

 

遠くから地鳴りのような音が聞こえて我に返った。