カムイ・カイコウ(八)
それほど時間が経たないうちに彼は回復したようだ。路駐した場所まで歩くのにも手伝いは要らなかった。まだ安心はできないと思いつつ車を発進させる。
しばらく走ると積雪が減ってきた。勾配も緩んだ気がする。標識も現れ、このドライブでよく見た片側1車線の一般道になった。難所を抜け出したかのような気分だ。カーナビもいつの間にか復活している。目的地への到着予想時刻は21時51分。旭川でセットした札幌のホテルへの到着時刻だろうか。
「今、夕張から由仁方面に走っているみたいです」
助手席から声が聞こえてくる。
「おお、道分かった?」
「はい、地図にぴったりの道がありました」
「それはよかった。ありがとう」
「ちなみに夕張には石勝線という路線が来ています。旭川から列車を間違えて来てしまう路線とは思えないのでさっきのがどうかは分からないですが」
「そうね…… 石勝線がどんな路線か知らないけど、あれは普通の鉄道ではないと思う」
「そうですね」
彼との会話が止むとカーオーディオからニュースが聞こえてきた。どこかの路線の特急列車が踏切でトラックと衝突したらしい。電話をかけてよいかどうか彼に聞かれたため、最後までは聞き取れなかった。
いくつかの小さい町を通り過ぎると高速道路が見えてきた。料金所を通過し、本線に合流する。また変な場所に連れていかれるのではないかと少し不安になったが、あっという間に札幌ICに着いた。
札幌の市街地をしばらく走ると目的地のホテルが見えてきた。彼もホテルのすぐ近くで降りると言う。約束の時間より大分遅くなったが、これから知り合いと少し飲むらしい。
「本当にご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、気にしないで」
「ありがとうございます」
「こちらこそありがとう。この先も気をつけて」
彼が忘れ物をしていないことを確認して発進。すぐにホテルの駐車場に到着。これでこの旅行でやるべきことはすべてやったと思いながら車から降りた。
〈完〉